*2006.08.23up*
|
|
――― 日本ではピアニストとして活躍する前に、テレビでもご活躍されていましたよね。
スペインの作曲家フェデリコ・モンポウのピアノ曲全集を出す1年前ぐらいから、旅の番組などに出ていました。 テレビの活動と録音活動が先行し、その後コンサートが増えていったので、ピアニストとしては日本では異例なデビューの仕方でしょうね。 私はテレビが好きだし、人前で話すのも好きだから、お話があったときは喜んでお受けしました。 もともと好奇心が強いし、興味があることにはなんでもトライしてみたい性格なんですよ。 単純な例で言うと、チョコレートが大好きなので、食べていないチョコレートは全部試してみたいと思っていますし……(笑)。――― そういう追求心は、演奏の上では、どんな風に反映されるんでしょう?
たとえばショパンのある曲を練習するとなると、自分が尊敬していたり興味のあるピアニストの演奏は全部聴いて、 「なるほど、この人はこうするんだ」と考えることが面白い。 このピアニストだったらどう演奏するんだろうと、推理しながら聴くこともあるし(笑) 聴き終わって意外性にびっくりしたり……。ピアノに限らずなにごとにおいても、 子どもの頃から、いつも「もっと知りたい、もっと知りたい」と思っていました。―――そうした好奇心や探究心は、日本にいても花開いたかもしれませんが、10歳からスペインで暮らしたことで、さらに大きく育っていったのかもしれませんね。
その通りだと思います。スペインと日本では文化も教育も違うし、人とのコミュニケーションの仕方がかなり違います。 日本は控えめなコミュニケーションをする風土なので、「あまり人を質問攻めにしてはいけない」みたいな、暗黙の了解がありますよね。 ところがスペインなどラテンの国では、自分を抑えることをせずに(笑)、初対面でもどんどん聞きたいことを聞きます。 会話の中にすごく質問が多いし、「あなたはどう思うの?」と、すぐストレートに聞くんです。 そういう環境で育ったので、日本に帰国した当初はカルチャーショックを受けました。 今でもときどき、「どうしてそんなに質問するの?」と言われることがあります。 知りたいから聞いている。ただそれだけの理由なんですだけど、ちょっと変わっていると思われるようですね。――― 日本に活動の拠点を移した当初は、とまどうことも多かったでしょうね。
自己主張が強すぎると思われるみたいですね。帰国当初は悩んだこともあったし、 あまり自己主張しないほうがいいのかなと、多少気をつけたりもしました。 でも幸い私は表現者なので、ある意味では「私らしくあること」が許される。 音で人を感動させることができたら、誰も文句言いませんから。――― 番組内で、何かに挑戦していく過程が好きだとおっしゃっていましたね。 28歳の時に、バッハの「ゴールドベルク変奏曲」という大変な大曲を録音なさっていますが、 20代でこの曲を録音している人は、世界的にみてほとんどいないと思います。 特に日本では、「まだ若すぎる」みたいな言い方をされがちだと思いますが。
私は、若い時には若い時なりの演奏があっていいと思ったんです。だから素直な気持ちで、挑戦しました。 16歳の時に世界的なピアニストのグレン・グールドからいただいた「自分を信じろ」という言葉に後押しされたし、 スペインの教育は「褒めて育てる」ので、そうした環境で育ったことも、思い切って何かをやる力になっていると思います。 あの時は録音に2年間かけたので、達成したときはすごく嬉しかったけれど、 それ以上に、その過程の2年間という時間がものすごく充実していたし、勉強にもなりました。 今考えると、あのCDを録音したことが、自分にとって大きなターニングポイントになっています。 達成したことで自信が生まれたし、どんどん新しいものに挑戦していっていいんだという、未来の自分に対する希望が広がっていった。 「過去」は必ず、今の栄養になっているんですね。私は、たとえ失敗したとしても、 「何かに挑戦する」経験は必ず次の栄養になる、どんな経験も自分にとってマイナスになることはぜったいにないと考えています。――― 音楽以外では、どんなところからエネルギーを得ているのですか?
動物や自然、それに絵画や色彩など、美しいものからインスピレーションを得ることが多いですね。 きれいな洋服もエネルギー源。普段の服も演奏の時のステージ衣装も、私なりにこだわっていますし、 曲のイメージで衣装を考えるのも楽しいひとときです。食べることも大好きで、食べたい時に、食べたいものを食べています。 1回ステージに出ると、1キロ半ぐらい痩せます。そのくらいエネルギーを使うので、食べないともたないんですよ。 おいしいものを食べていないと、エネルギーも精神力もついてこなくなり、気力も集中力もなくなります。 ですから、食べたいのを我慢するのは、私にとってマイナスなんです。――― その他、健康面で気をつけていらっしゃることは?
12時前には必ず寝るようにしています。それと、疲れたなと思ったら、ソファでもどこでも横になって、ちょっと休む。
そういう点では、我慢しないようにしています。「頑張りどころ」と、「無理しないところ」のメリハリは、年齢とともに意識的に気をつけるようになりました。
新しいことにチャレンジする精神力を高めるために、身体は無理をしない。疲れが積み重ねると、必ず身体に出ますから。
|
――― ストレスを溜めないことも大事だと、おっしゃっていましたね。
帰国した直後は人間関係などで悩むこともありましたが、そんなふうにストレスを感じているのは時間の無駄だと、歳とともに分かってきたんです。 だからとにかくストレスを溜めない方法を、自分なりに身につけてきました。 「きれいだなぁ」とか、「いいなぁ」と思うものを見ている瞬間って、誰でも心地よいですよね。 そういうものを生活の中でたくさん感じるようにしていると、ストレスを追い払うことができるんですよ。 本を読んでいても、素敵な言葉と出会うと、その日一日なんとなく嬉しいし。――― ヨーロッパは日本よりコンサートも美術館も安いし、皆さん気軽にそういう場に出かけますよね。 それこそ「きれいだなぁ」とか「いいなぁ」と感じる時間をたくさん持っている。
皆さん散歩でもするように、気軽に出かけます。 子どもの頃から生活の中で日常的に"美しいもの"に触れていると、きっと心の余裕が生まれるし、 ストレスもあまり溜まらないんじゃないでしょうか。 それと、ストレス解消に大事なのは、なるべく笑うこと。 笑ったあとはすごく気持ちがいいし、笑う回数が増えると、表情がイキイキして若々しくなるんですね。――― 表情がイキイキすると、その分、内側からの美しさも増していきますね。 外側から、つまり美容やスキンケアと、内側からの美しさのバランスが大切なんですね。
充実した目標があると、ウキウキしますよね。そうした内側からの充実感、食べ物、美容、すべてのバランスが大事なんでしょうね。 私は日頃から日焼けに気をつけていて、特に手はぜったいに日焼けしないようすごく気を使っています。 やはり演奏しているとき、お客様によく見えるところですから。 だからタクシーに乗っていても、ガラス越しに光がさしてくるときには、手にハンカチをかぶせたりします。 実は私、最近だいぶ髪が黒くなりましたが、スペインにいた頃は髪が紫外線によるダメージで真っ茶色だったんですよ。 紫外線って怖いなと実感しました。――― 今年でデビュー20年ということですが、これからやってみたいことは?
オーケストラとの共演も増やしたいし、ソロだけではなく、意外性のある楽器とのコラボレーションもやってみたいですね。 ピンとくる曲があれば、クラシック以外のものにもどんどん挑戦したいですし。 それから今年、モンポウのアルバムをまた出します。アルバムの名前は、『モンポウの「静かな音楽」』というんです。 静けさの中にも音楽が存在するんです。とても不思議な世界なんですよ。 年齢を重ねることで、以前とは違った表現が生まれてきていると思います。 ぜひ多くの人に聞いてもらいたいですね。
インタビュー/テキスト 篠藤ゆり


12時前には必ず寝るようにしています。それと、疲れたなと思ったら、ソファでもどこでも横になって、ちょっと休む。
そういう点では、我慢しないようにしています。「頑張りどころ」と、「無理しないところ」のメリハリは、年齢とともに意識的に気をつけるようになりました。
新しいことにチャレンジする精神力を高めるために、身体は無理をしない。疲れが積み重ねると、必ず身体に出ますから。
